2025年上半期、公正取引委員会が下請法違反およびフリーランス新法違反で勧告した企業は全部で18社にのぼります。
皆さんがよく知る大企業から、意外なあの会社まで、どのような違反で勧告を受けたのでしょうか?今回はその全貌と、違反内容の傾向について見ていきましょう。
勧告を受けた企業リストと解説
1. 東京ラヂエーター製造株式会社
- 勧告日: 2025年1月23日
- 企業情報: 自動車部品メーカー。資本金13億1,760万円、従業員879名、売上高334億円。
- 違反内容詳細: トラックや建設機械の燃料タンクなどの金型2,389個を、下請け事業者30社に無償で保管させていました。
コメント: 下請法の違反事例として最も典型的なのが、この「金型の無償保管」です。生産終了後も金型を下請け企業に保管させる行為は、下請け企業の経営を圧迫するだけでなく、新たなビジネスチャンスを奪うことにもつながります。
2. 愛知機械工業株式会社
- 勧告日: 2025年2月18日
- 企業情報: 日産自動車の子会社。資本金85億1,800万円、従業員1,527名、売上高1,405億8,000万円。
- 違反内容詳細: 生産が終了した自動車部品の金型約400個を、下請け事業者5社に無償で保管させていました。
コメント: こちらも金型の無償保管が原因です。親会社である日産自動車のガバナンスが問われる事例と言えるでしょう。グローバル企業の子会社であっても、国内の取引における法令遵守が徹底されていない現状が浮き彫りになりました。
3. 中央発條株式会社
- 勧告日: 2025年2月18日
- 企業情報: 自動車部品メーカー。資本金108億3,700万円、従業員4,362人、売上高1,101億5,700万円。
- 違反内容詳細: 自動車用ばねなどの金型約600個を、下請け事業者24社に無償で保管させていました。
コメント: 長年にわたる取引関係の中で、暗黙の了解として金型の無償保管が常態化していた可能性が考えられます。公正な取引慣行を確立するためには、発注側企業が自社の取引ルールを定期的に見直す必要があります。
4. フクシマガリレイ株式会社
- 勧告日: 2025年2月19日
- 企業情報: 業務用冷凍冷蔵庫メーカー。資本金27億6,000万円、従業員2,388名、売上高1,049億9,600万円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者159社に対し、「価格協力」などの名目で約4,000万円を不当に減額していました。
コメント: 「価格協力」という名目での減額は、下請法が最も厳しく禁じている行為のひとつです。発注側の都合で一方的に代金を減額することは、下請け企業の経営計画を狂わせ、品質低下の原因にもなりかねません。
5. 株式会社荏原製作所
- 勧告日: 2025年2月20日
- 企業情報: ポンプなどを製造する大手メーカー。資本金796億4,300万円、従業員20,510人、売上高1兆50億円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者176社に対し、過去最多となる8,900個もの木型や金型を無償で保管させていました。
コメント: 売上1兆円を超える大企業による、驚くべき規模の違反です。保管期間が20年以上に及ぶ事例もあり、下請け企業の膨大な保管コストやスペースが、荏原製作所側の都合で無償提供されていた実態が明らかになりました。
6. 株式会社ビックカメラ
- 勧告日: 2025年2月28日
- 企業情報: 大手家電量販店。資本金259億2,900万円、従業員10,200人、売上高9,225億7,200万円。
- 違反内容詳細: プライベートブランド製品の製造を委託した下請け事業者51社に対し、総額5億5,700万円超を「拡売費」などの名目で不当に減額していました。
コメント: 減額された総額が5億円超と、突出して大きな金額です。家電量販店業界における「拡売費」などの商慣習が、下請法に抵触する可能性を示唆する事例と言えるでしょう。
7. 株式会社日本セレモニー
- 勧告日: 2025年3月6日
- 企業情報: 冠婚葬祭互助会事業。資本金5億1,700万円、従業員4,586名、売上高796億円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者に対し、おせち料理やディナーショーチケットの購入を強制する行為が再び確認されました。
コメント: 過去にも同様の勧告を受けている点が最大の問題です。一度違反を指摘されたにもかかわらず、是正が行われていなかったことが、企業のコンプライアンス意識の欠如を物語っています。
8. 株式会社フタバ九州
- 勧告日: 2025年3月7日
- 企業情報: トヨタ自動車九州の部品製造を担うメーカー。資本金4億6,000万円、従業員501名、売上高438億円。
- 違反内容詳細: 自動車部品製造に使う金型3,733個を、下請け事業者16社に無償で保管させていました。
コメント: トヨタグループのサプライチェーンを構成する企業であり、業界全体の取引慣行が問われる事例です。下請法違反のリスクを軽減するためには、親会社や業界団体が主導してガイドラインを設けることも重要です。
9. クノールブレムゼ商用車システムジャパン株式会社
- 勧告日: 2025年3月19日
- 企業情報: ドイツの世界的ブレーキメーカーの日本法人。資本金3億9,000万円、従業員260名。
- 違反内容詳細: 下請け事業者9社に対し、下請け代金を総額6,700万円超不当に減額していました。
コメント: 外資系企業においても、日本の下請法が適用されることが明確に示された事例です。「One Time Bonus」という名目での減額は、形式的な言葉で不当な行為を正当化しようとする意図が見て取れます。
10. 株式会社シャトレーゼ
- 勧告日: 2025年3月27日
- 企業情報: 和洋菓子・アイスクリームの製造販売。資本金5,000万円、従業員2,700名、売上高1,313億円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者に製造を委託した包装資材など約2,400万円相当を受領拒否し、さらに無償で保管させていました。
コメント: ケーキやアイスで有名なシャトレーゼも勧告対象となりました。製造発注した商品や資材の「受領拒否」は、下請け企業にとって致命的な在庫リスクとなり得ます。
11. 株式会社コロナ
- 勧告日: 2025年4月17日
- 企業情報: 石油ファンヒーターなどの製造メーカー。資本金74億4,960万円、従業員2,138名、売上高820億4,600万円。
- 違反内容詳細: ストーブなどの金型1,818個を、下請け事業者33社に無償で保管させていました。
コメント: 金型無償保管の件数は、過去の事例と比較してもかなりの規模です。長期間にわたる慣習的な取引が、意図せずとも下請法違反につながる可能性を示唆しています。
12. 佐藤商事株式会社
- 勧告日: 2025年4月21日
- 企業情報: 鉄鋼・非鉄金属の専門商社。資本金13億2,136万円、従業員1,057名。
- 違反内容詳細: 下請け業者19社に対し、品質検査をしていないにもかかわらず不当な返品を繰り返したり、支払い期日を最長5か月遅延させたりしていました。
コメント: 「不当な返品」と「支払い遅延」という二重の違反です。特に支払い遅延は、下請け企業の資金繰りに直接的な打撃を与え、事業継続を困難にする恐れがあります。
13. カヤバ株式会社
- 勧告日: 2025年4月24日
- 企業情報: 油圧機器メーカー。資本金276億4,800万円、従業員13,920名、売上高3,883億6,000万円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者167社に対し、金型を無償で保管させていました。
コメント: 多くの下請け企業と取引する大手企業ほど、下請法違反のリスクは高まります。今回の勧告は、取引先が多岐にわたる企業に対し、一律のコンプライアンス管理を求めるものです。
14. 株式会社スズキ自販大分
- 勧告日: 2025年4月24日
- 企業情報: スズキの正規ディーラー。資本金6,000万円、従業員284名、売上高175億円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者8社に対し、顧客向けの代車25台を無償で提供させていました。
コメント: 「代車の無償提供」という、これまでにないユニークな違反事例です。自社に発生するコストを、立場の弱い下請け企業に押し付ける行為であり、下請法が定める「不当な経済上の利益の提供要請」に該当します。
15. 日精樹脂工業株式会社
- 勧告日: 2025年5月13日
- 企業情報: 射出成形機メーカー。資本金53億6,250万円、従業員約430名、売上高470億6,800万円。
- 違反内容詳細: 下請け事業者に金型を無償で保管させていたほか、発注後に一方的に給付内容を変更するなど、不当な変更を強要していました。
コメント: 金型無償保管に加え、「不当な給付内容の変更」という別の違反も確認されました。発注後の仕様変更は下請け企業のコスト増につながるため、発注前に十分な協議と合意が不可欠です。
16. 株式会社小学館
- 勧告日: 2025年6月17日
- 企業情報: 大手出版社。資本金1億4,700万円、従業員720名、売上高1,087億7,800万円。
- 違反内容詳細: フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)に違反。フリーランスのライターやカメラマンに対し、報酬の支払い遅延や、契約内容の書面交付を怠っていました。
コメント: 2024年に施行されたばかりのフリーランス法に基づいた、初の勧告事例のひとつです。出版社とフリーランスの関係にメスが入ったことは、クリエイターや個人事業主の保護において大きな一歩となります。
17. 株式会社光文社
- 勧告日: 2025年6月17日
- 企業情報: 出版社。資本金1,800万円、従業員277名、売上高159億円。
- 違反内容詳細: 小学館と同様、フリーランス法に違反。フリーランスへの報酬支払い遅延や、契約内容の明示を怠っていました。
コメント: 小学館と同時に勧告を受けた光文社の事例は、出版社業界全体の商慣習に問題がある可能性を示唆しています。フリーランスとの取引における契約書類の交付や支払い期日の遵守が、今後さらに厳格に求められるでしょう。
18. 島村楽器株式会社
- 勧告日: 2025年6月25日
- 企業情報: 総合楽器専門店。資本金1億円、従業員2,378名、売上高458億円。
- 違反内容詳細: フリーランスの音楽講師に対し、取引条件の書面交付を怠ったり、無償で体験レッスンを行わせたりしていました。
コメント: 音楽教室を運営する同社もフリーランス法の対象となりました。報酬の支払いを伴わない「無償での役務提供」は、フリーランスの正当な対価を奪う行為であり、今後同様の事例が他業界でも指摘される可能性があります。
下請法違反の傾向は?
2025年上半期の勧告事例を見ると、最も多かった違反は「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」で、全体の63.2%を占めていました。これは、下請け企業に金型や木型を無償で保管させる行為が主で、12社が該当しています。
次に多かったのが「下請代金の減額の禁止」で、全体の15.8%でした。フクシマガリレイやビックカメラのように、「価格協力」などの名目で不当に代金を減らす行為がこれにあたります。
また、今回はフリーランス法に違反したとして、小学館、光文社、島村楽器が勧告を受けていることも注目すべき点です。
下請法やフリーランス法は、立場の弱い事業者を守るための重要な法律です。企業がこれらの法律を遵守し、公正な取引を行うことが、健全な市場を築く上で不可欠だと言えるでしょう。