アルミダイカスト製品の製造で知られる岩機ダイカスト工業株式会社が、令和7年(2025年)8月7日、公正取引委員会から下請法違反で勧告を受けました。同社の不当な取引実態と、下請事業者への深刻な影響について詳しく解説します。
事件の概要
公正取引委員会の調査により明らかになったのは、岩機ダイカスト工業による組織的な下請法違反行為でした。同社は2023年4月から2025年1月までの約2年間にわたり、下請事業者16社に対して約815万円相当の製品を不当に返品していたのです。
特に悪質なのは、一度ロット検査で合格と判定した製品について、後の工程で「目視や簡単な検査で発見できるような不良」を理由に返品を強要していた点です。このような行為は、下請代金支払遅延等防止法(下請法)第4条第1項第4号「返品の禁止」に明確に違反します。
岩機ダイカスト工業の手口
同社の違反行為は計画的かつ組織的でした。製造を委託したアルミダイカスト製品について、以下のような手口で下請事業者を苦しめていました:
検査基準の恣意的運用:まずロット検査で合格と判断しておきながら、後になって別の基準で不良品として扱う二重基準を採用。これにより下請事業者は予測不可能な返品リスクに晒されました。
費用転嫁の強要:返品した製品の代金だけでなく、返品にかかった加工費までも下請事業者に負担させる徹底ぶり。中小企業の経営を圧迫する行為そのものです。
長期間の継続:この不当行為は単発ではなく、約2年間という長期にわたって継続されており、組織ぐるみの確信犯的行為と判断されます。
下請事業者への深刻な影響
被害を受けた16社の下請事業者は、合計約815万円という巨額の損失を被りました。この金額は中小企業にとって経営を揺るがしかねない規模です。
さらに深刻なのは金銭的損失だけでなく、取引の予見可能性を奪われたことです。一度合格した製品が後になって返品される環境では、下請事業者は安定した事業計画を立てることができません。
岩機ダイカスト工業の企業背景
岩機ダイカスト工業は1968年に「岩機ダイカスト工業所」として操業を開始し、翌1969年に法人化された宮城県山元町の老舗企業です。2017年には経済産業省から「地域未来牽引企業」に選定されるなど、地域の優良企業として評価されてきました。
同社はアルミニウムダイカストとMIM(Metal Injection Molding、金属粉末射出成形法)を事業の両輪として展開し、自動車部品を中心とした精密部品の製造を手掛けています。
しかし今回の事件により、その企業イメージは大きく損なわれることとなりました。地域の優良企業として期待されていただけに、下請事業者に対する不当な取引慣行の発覚は地域経済全体への信頼失墜にもつながりかねません。
公正取引委員会の対応
公正取引委員会は岩機ダイカスト工業に対し、以下の勧告を行いました:
返金の実施:下請事業者に引き取らせた製品の代金相当額約800万円の支払い
再発防止策の実施:下請法の遵守体制整備と社内教育の徹底
なお、宮城県内の事業者が下請法違反で勧告を受けるのは13年ぶりという事実も、今回の事件の重大性を物語っています。
企業の対応と今後の課題
勧告を受けて岩機ダイカスト工業は「勧告を真摯に受け止め、積極的に改善に取り組む」とコメントしています。しかし、約2年間にわたって継続された組織的な違反行為を考えると、表面的な改善ではなく根本的な企業体質の改革が求められます。
特に重要なのは、下請事業者との関係性を対等なパートナーシップとして再構築することです。大企業の下請けいじめは、中小企業の健全な発展を阻害し、結果的に日本経済全体の競争力低下につながります。
下請法の意義と今後の展望
今回の事件は、下請法がいかに重要な法律であるかを改めて示しています。下請法は中小企業を不当な取引条件から保護し、公正な取引環境を確保するための重要な防波堤です。
令和8年1月1日からは法律名が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法)に変更される予定で、より実効性の高い法的枠組みが整備されます。
公正取引委員会は今後も監視と指導を強化していく方針を示しており、下請けいじめを行う企業には厳正な対応が取られることでしょう。
まとめ
岩機ダイカスト工業の下請法違反事件は、優良企業とされていた企業でも下請けいじめを行っていたという事実を突きつけました。この事件を機に、全ての企業が下請事業者との取引関係を見直し、公正で持続可能なパートナーシップの構築に取り組むことが求められます。
中小企業が安心して事業を継続できる環境づくりこそが、日本経済の持続的発展の基盤となるのです。今回の勧告が、業界全体の取引適正化に向けた転換点となることを期待します。